研究紹介

研究の視点

水は人間活動の前提条件であり,農業にとっての生命線です。「水」は量に限りのある貴重な資源であり,同時に重要な自然環境要素でもあります。水利用における21世紀のキーセンテンスは,「節度ある水資源の開発を行って,水を有効かつ高度に利用するとともに,汚染や汚濁を防止し,水の恩恵を受けているあらゆる主体の間で均衡ある水の配分を行って持続可能な水利用体系を築くこと」であるといえます。このためには,水資源を広範な観点から統合的に管理する「統合的水資源管理(Integrated Water Resources Management)」の考え方が重要です。地球規模的に進行しつつある水危機(Water Crisis)に対して,世界水会議(World Water Council, 2000)は,次のような警告を発しています。

Today's water crisis is widespread, and continuing with current policies for managing water will only widen and deepen that crisis.
...........World Water Council, 2000
(今日直面する水危機は拡大の一途を辿りっており,現在のような水管理の方法を続けていけば危機はますます広がり深刻化するだけだ。)

水資源利用工学研究室では,このような警告が発せられる以前から,

Controlling and managing water, based on hydro-environmental models, must be innovative grand tactics to combat the water crisis.
.... Water Resources Engineering Lab., since 1995

との考えに基づき,水危機に対抗するには,水理・環境モデルを用いた科学的合理性 に立脚した水の制御と管理が重要であると主張してきました。以来,このような視点に立って,主として工学的な立場からさまざまな基礎的,応用的な研究に取り組んでいます。

より具体的には,@水環境をモデリングする,A水環境をコントロールする,という二つの大テーマを掲げ,水資源が織り成す水環境という視座から,水のダイナミズムを考慮した最適な水資源・水環境管理のあり方とその方法論を提案することに研究の主眼を置いてきました。

水環境のモデリング

  • われわれの身近には,河川水,水路を流れる用水,湖沼水(ダム湖の水も含まれる),海湾の沿岸水,地下水があります。これらを利用し水環境の保全を行うには,水の力学的な挙動とともに,水質の変動を知ることが基本的に重要なこととなります。流水の力学特性を問題にするのが「水理学(Hydraulics)」,これを基礎として水質問題を扱うのが「環境水理学(Environmental Hydraulics)」とよばれる学問分野です。また,水資源や水環境の問題は流域規模的な水循環の問題と大きく関わっており,陸地における水のあり方・循環・地域分布を扱う「水文学(Hydrology)」も,重要な基礎学の一つです。
  • 研究室では,コンピュータを使って流れと水質を数値的に解析する際のモデル化問題について主として基礎的な面から研究を行っています。より具体的には,現象を表現する「数理モデル」を各種の数値スキームを介して「数値モデル」に変換し,その再現性(精度)や安定性などを論議する研究を進めています。また,「降雨-流出系」に関する水文学的な分野においても,新しい流出モデルの開発などを進めています。
  • 環境水理学的なモデル化問題では,たとえば,ゲートや堰を含んだ河川や水路システムに対する水理モデル,湖沼や農業用溜池における水流/水質・生態系モデル,地下水の流動と水質汚染解析モデルなどに対して新しいモデル化手法の導入を試み,それらの有効性を検証しています。また,水文学的なモデル化問題では,不飽和帯を含んだ3次元の地下水流動方程式を基礎とした分布系流出モデルの開発などを行っています。
  • このようなモデルは,単に現象を理解するためのシミュレーションモデルとしてだけでなく,水環境の予測や制御といった問題を扱う際の基本モデルともなります。
  • 水環境のモデリングに関する研究とは,水理・水質環境さらには水文学的な視点から,水資源の利用問題,延いては制御・管理問題を論議する際に必要となる基本ツールを開発することといえます。
水環境のモデリング図

水環境のコントロール

  • 水資源の利用とは簡単にいえば,「自然水を用水化して利用し,利用後の水を再び自然水に戻す行為」といえます。このとき重要なことは,必要な質と量を備えた用水を,必要な時,必要な場所にできるだけ無駄なく送り届けること,そして利用後の水を自然水に戻す際に河川や湖沼といった公共用水域の水環境を悪化させないことです。
  • このようなことを実現するには,用水と排水の質と量を積極的にコントロールするという姿勢が必要です。
  • 研究室では,水源から水需要地までの利水システム内部(地下水を含む)における貯水や流水を最適にコントロールする方法,また,そのための各種利水施設(水路やゲートなど)の構造や操作のあり方について理論的,基礎的な研究を進めています。たとえば,ダムあるいはダム群の貯水量を最適に管理するための方策,用水路内に必要な流量を流すための最適なゲート操作の方法,広域的な利水システムの最適な管理方策(水資源の配分方法)などが,用水のコントロールに関連する具体的な研究課題です。
  • 排水のコントロールの問題では,排水の受け皿となる河川,湖沼,地下水の水質を必要な水準に保つには,利水システム(農業系,工業系,生活系)から排出される汚濁負荷をどの程度に抑えたらよいかといった流域規模での水質管理戦略や土地利用戦略のあり方とその具体的方法論,さらにはこれらの水域で観測された水質データから逆に汚染源を推定するための方法論などについて研究を進めています。
  • これらの研究では,先のモデリング研究で得られた数値モデルに制御理論や最適化理論,またファジー理論,遺伝的アルゴリズム,ニューラルネットワークなどの人工知能技術を組み込み,水資源の量と質を制御・管理するための最適化モデルや利水施設を合理的に設計・操作するための最適化モデルを作成することが基本となります。これらのモデルは管理者や設計者が意思決定する際のよりどころとなることから,「意思決定支援モデル」と呼ばれます。
  • 近年では,GIS(Geographical Information System/地理情報システム)と呼ばれる手法を援用して,農地や林地がもつ水源涵養能(地下水の自然涵養能),流域から河川などの公共用水域に排出される汚濁負荷量,農業用溜池や水田がもつ洪水緩和機能,流域における降雨-流出過程などの評価をより精細に行うとともに,自然環境や人工的な農業用施設が地域の水循環に果たす役割(水循環コントロール機能)についての研究にも着手しています。
  • 水資源の利用と管理のあり方とそれらを実現するための方法論(最適化モデル)を確立すること。さらに,自然や既存の利水施設がもつ水循環コントロール機能を定量的に評価すること。これらが水環境のコントロールに関する研究です。

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