研究紹介

主要な研究課題

水資源工学における流体モデルの展開

世界規模の水危機が叫ばれる今日,逆説的に生活基盤である「地域」という単位に目を向けることが重要であると考えられます。地域における水の循環を意識し,その中で人間活動が与える影響を考慮して水利用のありかたを決定していくという手法が必要です。

地形,地質,気候,灌漑や施肥などの営農活動といった多様な要因が複雑に関係しあって,地域の水環境は形成されます。特に,わが国に多い水田地帯では,ため池-用水路-水田-排水路といった歴史を通して構築された水利ネットワーク(図2)が水環境の形成に対して本質的な役割を演じています。総合的な水資源の管理・開発・保全を達成するためには,これらを適切に考慮できるシミュレーションモデルが必要となります。

図1 対象地の鳥瞰図

図1

図2 利水ネットワーク

図2

ハイブリッド型 地域水文水質モデル

概念モデルと物理モデルを組み合わせたモデル(図3)で,計算負荷が小さいため長期シミュレーションが可能です。地表から表層土壌を概念モデルである水質タンクモデルと土壌水分モデルを用い,浅層地下水をDupuitの準一様流を仮定した物理モデルを用いています。

土地利用(図4)や水路網,地質などのGISデータや気象データ,各圃場における水管理や施肥実態を入力として計算した結果,観測井における地下水位変動や硝酸態窒素濃度を概ね良好に再現しています(図5)。

図3 地域水文水質モデルの構造

図3

図4 2008年土地利用分布

図4

図5 シミュレーション結果

図5

地表水・地下水・熱 連成型地域水環境モデル

水深や温度などのすべての変数が物理式で表わされるモデルで,有限要素法や有限体積法などの数値手法を用いて計算されます。溶質濃度などの新たな変数の追加といった拡張性が高く,メッシュサイズの調節により高い精度の解が得られますが,効率のよいアルゴリズムの採用などの計算負荷を軽減する工夫が必要となります。

山地小流域に適用した例(図6)では,降雨事象に対するハイドログラフと流出寄与域の拡大・縮小が再現されました。

山地-扇状地-平地と地形的に連続した地域に適用した例(図7)では,河川への流出点や湧水地点,湿地帯が再現されました。

扇状地と低平地における水田で生じる地温差を再現した例(図8・9)では,同一の境界条件を与えても透水係数の違いにより全く異なる地下水面形となっています。比熱の大きい水の含有量の違いにより,地温に差が生じることが示唆されます。

図6 山地小流域への適用例

図6 累積雨量の増加につれて流出寄与域(赤い部分)が拡大していく。

図7 山地-扇状地-平地領域への適用例

図7

図8 扇状地と低平地の水田の表面温度

図8 サーモグラフィーを用いて潅漑期の6月中旬に上空より撮影。
扇状地水田(手前)より低平地水田(奥)のほうが2?3℃温度が低い。

図9 地質・地下水深が地温に与える影響

扇状地水田 図9 低平地水田

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